【書評】 一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教
一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)
- 作者: 内田樹,中田考
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/02/14
- メディア: 新書
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イスラム教はもともと遊牧民の宗教。つまり、国境自体を意識しない。クロスボーダーな集団だった。これは国土、国民を絶対とし、国境を死守する、現在の「国民国家」とは折り合いが悪い。
いま「グローバリズム」が叫ばれているが実態は「汎アメリカ化(アメリカン・グローバリズム)」。だが、その勢力を伸ばし、世界を「フラット化」するにはイスラム教は邪魔。
なぜなら、イスラム教は同一の儀礼、儀礼の言語、同一のコスモロジーを共有しているので「汎アメリカ」の強力な対抗勢力となりうる。
だが、そのイスラム圏を分断するために、欧米の宗主国はそれぞれの支配層へエージェントを残していった。彼らは国家の利権の名のもと、自らの権益を守るため、イスラム圏の分裂を固定化している。
アメリカはダブルスタンダード。
日本や韓国の非イスラム圏は自由貿易によって市場を解放させ、食料自給率を低め、英語公用化か勧め、固有の文化や商習慣を廃絶し、国民国家としての自立性・主体性をなし崩し的に無化していく。
逆にイスラム圏には正当性の乏しい独裁国家を応援して、境界線を厳しく分断し、内部の連帯が取られないようにする。
イスラーム的に正しい政府をつくろうとすると、国を超えてムスリムが選ぶカリフが必要となるが、それは国民国家に縛られたままでは難しい。
だが、イスラム圏の分裂を修正するために著者のひとりである中田氏は「カリフ制復興」を掲げている。そのため、アメリカには目をつけられている。
<感想>
イスラム圏が国民国家と折り合いが悪く、下手をすると『不倶戴天』になってしまう道筋は、内藤 正典著「イスラームから世界を見る」からでもぼんやりとはうかがい知れた。
が、本書では内田氏と中田氏では「国民国家」の是非について対談を通して、その点がもっとはっきりと指摘されている。
特にアメリカのアレルギーとも言うべき激しい拒絶反応の理由がよりはっきりした。
が、いくら「カワユイ」が相手の攻撃衝動を削ぐための戦略だと言われても、「みんなのカワユイ(^◇^)カリフ道」のネーミングセンスはどうかとおもう(笑)
【書評】カウンセラーは何を見ているか
目次
第1部 すべて開陳!私は何を見ているか(私は怖くてたまらない;私はいつも仰ぎ見る;私は感情に興味がない;私はここまで踏み込む ほか)
第2部 カウンセラーは見た!(密やかな愉しみ;息切れは気持ちいい;無音劇場;縦ロールとカルガモ ほか)
プロの臨床心理士として30年以上のキャリアを持つ著者が自らの仕事について語ったもの。
=第1部 すべて開陳!私は何を見ているか=
<カウンセラーとは?>
「バーのクラブのママ、占い師、新興宗教の教祖を足して三で割り、専門性という装いをまぶした」存在。
多様なキャラが必要。面談室はドラマの舞台であり、それを場に応じて演じ分ける。演技的だったりオーバーアクションであることも時には必要。
<燃え尽きる?>
燃え尽きないようには、
これは彼女の師匠の「ほんとうの私なんてない」「真の自己より、着脱可能な自己を」の教えからくる。
患者の話は「本を読むようにファイリング」
<カウンセラーの姿勢>
患者から「ワンダウン」して、「仰ぎ見る」。
ただでさえクライエントは「自分で考えた末の蟻地獄」にはまっている。
そこに「上のもの」としてカウンセラーが現れることは主体性の放棄を促す。これがカリスマカウンセラーを生み出すカラクリだがこれはクライエントの依存を促す。
それを防ぐためにも、カウンセラーの姿勢が実はクライエントによって査定されていることへの畏れと謙虚さは必要。
感情を特権扱いしない。
状況も含めた多様なダイナミズムが大事。
語られた内容をめぐって頭脳をフル回転させる。
相手の息遣い、空気の流れ、間合い、語る速度までを瞬時の判断で選び、決定しなければならない。
一種のチューニング。
極度の緊張と覚醒が要求される。
あからさまな強制はよろしくない。
それによってコントロール不能な外海に泳ぎ出してしまうより、「自分で選んだ」満足感のもとに、生簀の中で泳いでもらう。そして、生簀ごと望ましい方向に移動させる。
性的マイノリティや、DV、依存は社会の枠組みや家族のあり方と無関係ではない。そのために外向きの視点を与え、問題を再定義し、捉え直す。
だが、これが難しい。なぜなら自分を見つめるだけの方がラクだからである。
しかし、このマクロとミクロの視点のバランスを保ち、クライエントが何を言っても「私は決して驚いたり批判したりしません」という姿勢を保つためには、日常生活において、多重・多層的な世界を生き、判断の軸を広げることを厭うてはならない。
<集団療法>
個人療法とうってかわって、支持や方向性を明確に打ち出し、「家族の危機」を回避する。
グループでは対個人と違って、カリスマになるリスクが薄まるからである。
<全てはお金のため>
1995年に新宿にカウンセリングセンターを設立した。
心理士のみの相談機関で20年間生き残るのは至難の業だった。
結局、病院に頼らない「脱・医療」となったが、経営の責任、脱医療の援助の構築が一気にのしかかってきた。
=第2部 カウンセラーは見た!=
心筋梗塞を起こし、患者として入院した、入院先の様々な人間模様を綴っている。
<感想>
特にフェミニストではないのだが、気づくと信田氏の著作を手に取っていることが多い。また、ご本人も一度講演でお見かけした。実際のお姿も、著作の中でも女闘士を思わせる雄々しい発言がめだったが、自身の内側を開陳するこの著作では意外に慎重で、いい意味で計算している姿勢が目立つ。
だが、男社会の典型である医療から「脱・医療」したように男性社会への反骨も息巻いている。
第二部の「患者観察日記」は彼女の人間観察眼の鋭さが光り、小説風で楽しく読める。プロだからこその観察眼なのか、この観察眼があるからプロなのか。多分、鶏と卵、もしくは両の車輪みたいなもんだと思う。
【書評】臆病者のための株入門
目次
第1章 株で100万円が100億円になるのはなぜか?
第2章 ホリエモンに学ぶ株式市場
第3章 デイトレードはライフスタイル
第4章 株式投資はどういうゲームか?
第5章 株で富を創造する方法
第6章 経済学的にもっとも正しい投資法
第7章 金融リテラシーが不自由なひとたち
第8章 ど素人のための投資法
自身も投資家として活躍している著者の刺激的でわかりやすい株式入門。
最初は、具体的なテクニックというより、株や市場の持つ投機性やデイトレについてエッセイ風に描かれている。楽しい総論といったところか。
第8章で以下の条件のもと、具体的な投資法も紹介されている。
<株式市場で優位性を得るための条件>
1.株式投資は確率のゲームである。
2.株式市場は概ね効率的であるが、僅かな歪みが生じている。
3.資本主義は自己増殖のシステムなので、長期的に市場は拡大し、株価は上昇する。
<株式投資の代表的な手法のメリット、デメリット>
1.トレーディング(デイトレを含む)
メリット:ゲーム性が高く、ハマるとやみつきに。
デメリット:厳しいゼロサムゲーム。初心者の大概は敗退する。
2.個別株長期投資(バフェット流)
メリット:最も大きなリターンが期待できる。
デメリット:企業調査に努力が必要。
3.インデックス投資(経済学的に最も正しい投資法 著者のおすすめは日本株:海外株 15:85)
メリット:簡単すぎて考える必要がない。
デメリット:平均的にしか儲からず地味。
<感想>
本屋に行けば、株や投資の本が山のように売られていて混乱するが、3つの代表的な手法に整理されると知って、だいぶすっきりした。
投資に王道はなく、自分がどのくらいのリスクが取れるのか、どのくらいの労力をかけられるのか、何だったら興味が持てるかの総体で、結局はメンタルを含め自身を知ることが大切なんだな、と実感した。